最近のSNSは過激な発言であふれかえっている。
僕もZ世代の端くれ、インターネットネイティブ世代ではあるが、自分が年齢を重ねるにつれてこの状況に対して疑問を感じざるを得ない状況になってきている。
なので今日は、なぜ人の意見を聞くのはこんなにも難しいのか、なぜ人はインターネット上の意見にここまで攻撃的になってしまうのかを考えてみたい。
最近世間で熱量が高い『財務省解体』の意見。
これがちょうどよく賛否両論あるので、この事例から深掘りしていこうと思う。
昨今のSNSでは常に誰かと誰かが喧嘩している

冒頭でも話した通り、昨今はSNS、とりわけXやTikTokでは常に誰かと誰かが喧嘩をしている。
それは財務省解体デモのように比較的大きな話題から、やれストッキングが破れないだとか、煽り運転がどうだとか、とにかくどんな些細な事でも誰かが喧嘩をしている。由々しき事態である。
なぜ人々はこうも他者の意見に対して攻撃的になってしまうのか。
とりわけインターネット上ではその傾向が顕著である。正直めちゃくちゃ鬱陶しい。
僕のタイムラインはそういった濁った意見に汚染され、ハッピーな情報は全く流れてこない。
自分と違う意見を持つ人が現れたとき、その意見に対してどう向き合うべきなのか。ここから詳しく考えていきたい。
財務省解体を叫ぶ声

ここ数週間SNSを賑わわせている話題と言えば、『財務省解体デモ』である。
まずはなぜ財務省解体が叫ばれるようになったのか理由を確認していく。
1.増税政策への国民感情
近年の日本では皆さんご存知の通り、消費税の増税、社会保険料の引き上げ、高額医療費制度の見直しなど物価高が進む中で国民の生活が困窮しているにもかかわらず、さらなる国民の負担が強いられるような政策をとってきた。
現政府はプライマリーバランスの黒字化を目標としており、今後もこの流れが続くと考えられる。
そういった政府に国民の反対感情が集まった結果、特に財政を牛耳っている財務省に対して、解体が叫ばれるようになったということだ。
2.財務省の影響力・裏金

財務省は、日本の財政を強く主導する立場にあり、大きな影響力を持っている。
現在、財務省は国の予算の決定(つまり歳出)、国税庁(つまり歳入)のどちらの権限も持っており、非常に大きな影響力を持つ。この莫大な権力によって天下りが横行し、誰も財務省に逆らうことができないと言う状況になっている、と言う主張がある。
この状況を打開すべく、歳入と歳出の機能を分断することで権力の分散を図ろうとするのが財務省解体派の意見である。
また、政府の裏金問題や外国へのばら撒きなど無駄を省くべきだと主張している。
3.日本の経済成長の停滞
ご存知の通り、日本はここ30年経済成長が停滞している。
日本企業の株価は上がらず、国民の年収も上がらず。むしろ実質賃金については下がる一方である。
日本は常にデフレの中にいた。最近になってようやくインフレが進んできたが、現在の物価は日本の経済成長によるものではなく、世界情勢によるコスト増の影響を受けたもので、国民の生活は苦しくなるばかりである。
こうした国民の不満が、今まで緊縮財政を続けてきた財政界への反発と言う形で現れているわけだ。
堀江社長とヒカル氏の奇妙な事件

ヒカル氏
そして今回の財務省解体についての意見が多くの民衆の目に触れるようになったきっかけがある。
YouTubeのヒカル氏である。
彼は2025年2月23日に『マスコミが財務省解体デモについて報じないから代わりに僕が広めます』という動画を公開した。これが瞬く間に数百万再生された。
内容は非常にシンプルで、
- マスコミは報じていないが今財務省解体が叫ばれている
- 財務省は大衆感情に寄り添えていない
- 国民にはしっかり説明したら伝わるのに財務省は説明不足じゃないのか
というもの。
彼は『自分は政治のことは詳しくない』と前提を提示しながらとっつきやすいライトな喋りで伝えている。これが普段政治のことはそこまで興味が無い層にめちゃくちゃ刺さった。今日本で大変なことが起きていると話題になったのである。
ちなみにこの動画には林尚弘社長も出演していて、林氏はやや財務省よりの発言をしたことでめちゃくちゃ叩かれている。ちょっとかわいそうだった。
この動画に対してホリエモン氏がアンサーした
ヒカル氏の動画がめちゃくちゃバスったことで、多くの著名人、YouTuberが財務省解体について触れる流れができた。その中でとりわけ注目されたのがホリエモンこと堀江貴文氏である。
堀江氏は『財務省解体してもどうしようもない理由を解説します』『減税することで逆に皆さんが苦しくなる理由を解説します』『財務省解体デモについて林社長と話しました』という動画を公開した。
堀江氏の意見はこうだ。
- 歳入と歳出について見直すポイントは多くある
- まずは自分の生活を良くするためには努力するべき
- 減税はインフレを助長して国民生活はより苦しくなる
- 財務省、政府の人間は非常に優秀で考えて行動している
堀江氏はおおよそ財務省の政策に賛同している立場のように見える。
彼は彼なりに現状に問題はあるとしつつも、減税には反対という立場である。
そして堀江氏の『デモは無意味』という立場に反発が集まってしまい、現在大炎上中だ。『ホリエモンは勉強不足』『財務省のイヌ』『補助金を貰っているから逆らえない』と散々な言われようである。
こうした流れを受けて現在は財務省解体に関する話題が大盛り上がりであるということだ。
それぞれの言い分を詳細に見てみる

ここからはそれぞれの主な意見について詳細にみていこう。
財務省解体派① 減税せよ
まずは非常にわかりやすいが減税による手取り、可処分所得の増加が求められている。
国民民主党が掲げた年収の壁の引き上げの議論がなかなか先に進まないことも今回のデモの発端である。
そもそも財務省解体の意見を持つ人は積極財政派である場合が多く、減税による税収の減少分は国債の発行によって賄うべきであるとしている。
日本は自国通貨を発行できるので国債の発行にリスクが小さいとする論であるが、詳しく解説すると脱線しすぎるので調べてみてほしい。ちなみに日本政府は緊縮財政派である。
財務省解体派② 歳入庁と歳出庁を作れ
現在の莫大な権力を分散させるために、歳入と歳出を切り離すべきという意見である。
その昔財務省は大蔵省であった。そこから現金融庁が分離され今の形になっている。
現在ヨーロッパなどではこういった歳入と歳出がそれぞれ独立して管理される形がとり入れられていて効率が上がった実績がある。
権力の分散に加えて歳入庁の創設によって社会保険料、年金の回収もれがなくなることをメリットとしている。
財務省解体派③ 使途不明金・裏金問題の解決、ばら撒きをやめて国民に還元せよ

記憶に新しい自民党の裏金問題、外国に対する数兆円規模の支援金など無駄を省いて、その分国民に還元せよという意見だ。
外国人に対する生活保護、健康保険の不正問題なども槍玉に挙げられており、国民が払った税金が外国人に使われるのが許せないということである。
こういった話題が出るたびに納税の意欲を失うという声もあり、気持ちよく納税するためにもここの改革を求めるという声が上がっているl。
デモ意味無い派① 減税はインフレを助長する
財務省解体反対派の意見として最もよく目にするのがこれである。
現在のインフレの波の中、減税をすることによってさらなるインフレを引き起こすということだ。
減税によって消費意欲が刺激され、物価高に拍車がかかるとハイパーインフレを引き起こす可能性があると。
また減税の恩恵というのは高所得者ほど高く、低所得者の救済にはなりにくいという。
デモ意味無い派② 国家予算の見直しにかかるコストも考えるべき
2024年度の日本の国家予算は112.7兆円であった。
100兆円規模の予算の中で無駄な支出はいったいいくらか?という論調である。
- 民主党政権時代に一生懸命仕訳をした結果削減できた予算は1%程度だった。
- この中には必要な経費も多く含まれているとされ、当時多くの批判を集めた。
- 実際に仕訳に必要な経費や労力を考えると効果は限定的である。
裏金問題についても解決すべきとはしながら、数十億円規模であれば影響は少ないとしている。
デモ意味無い派③ 少子高齢化によって国民は苦しんでいる

結局のところ国の運営で大きな足枷になっているのは社会保障費であり、財務省の運営に文句を言っても仕方がないという意見。
財務省は現状可能な限りの策を打って出ているが、高齢化による社会保障の圧迫が凄まじく、保険制度の見直しや増税はやむなしという意見である。
それぞれの意見への反証と俯瞰
そしてこれらの意見にはそれぞれ反証が存在する。
ここからはその内容をみていきつつ、僕が俯瞰的にみてどう考えているのかを解説していきたい。
ちなみに本件に対する僕の立場は中立である。正直どっちでもいい。
減税されてもいいし、増税されてもいい。使途不明金もどうでもいい。決められた税金と社会保険料を納めて暮らすだけだし、中流階級独身一人暮らしで生活にも困っていない。
なので本当に中立的な目線からそれぞれの意見を論理的に判断していきたい。
①減税せよ→インフレが助長され高所得者有利の社会になる

減税に対する反論は先ほども述べたとおりで、さらなるインフレを引き起こす可能性があるということである。
消費が刺激されることによって物価が上昇する。市場に流れる金の量が増えることによって投資も加速し、物価が上昇する可能性がある。
また減税による恩恵は高所得者ほど高い。
これは高所得者ほど税金を多く納めているからで非常にシンプルである。
概ね筋が通っている
この意見は概ね筋が通っているように感じる。
需要の増加はインフレの要因になり得るし、金あまりの状態は不動産価格の上昇や株価上昇に拍車をかけるのも事実である。また後述するが減税がインフレの要因にならないとする意見が若干破綻気味であるのも気になる。
国民民主党の政策についても、かねてから年収の壁見直しは富裕層優遇になると言われてきているし、実際に計算してみても高所得者ほど減税額が大きい。
10%の所得税を納める人と45%の所得税を納める人で、控除額が同じだけ上がったら減税額が大きく変わってくるのは当たり前だ。消費税についても同じで、高所得者ほど多くの税金を納めている。
ヒカル氏が主張していた贅沢品への消費税を増税、食料品は減税するという意見は悪くないように思えるが、その線引きは難しい(贅沢な服と贅沢でない服は分けられるか?)ように思うし、おそらく軽減税率を獲得するための利権が問題になって別の批判が生まれる。
②歳入庁と歳出庁→コスト増加の懸念がある・財務規律が乱れる
現在は一元管理できている歳入と歳出が分離することで情報伝達のコストが増加する。
また大規模な行政改革が必要でこれもまた莫大なコストがかかってしまう。
また財務省の歳出管理能力が低下するため無駄な支出が増える恐れがある。
分断によるデメリットはそこまでないように見える
これについては分断しても問題がなさそうに見える。若干無理がある反論で、確かに実際にドイツでは歳入庁の創設によって徴収効率が低下した例などがあるが、成功している事例も多く、一部の失敗だけを切り取ってやらない理由にするのは苦しいように思う。
無駄な支出が増える可能性についても運営の問題であり、分断そのものの明確なデメリットとはいえない。
③使途不明金→国家予算規模では大した問題ではない

日本の使途不明金や裏金は予算に対してたったの0.1〜0.5%程度(数千億円)で影響は非常に小さい。
その管理や精査に労力を費やすくらいであれば、そこは切り捨ててより効率的な業務に充てるべきであるとする意見。
また、外国への支援は巡り巡って日本に返ってきているので無駄なばら撒きではない。
国民感情を無視している・海外支援は賛成
この意見は正直かなり厳しい。使途不明金に対して国民が憤るのは当たり前で、自分の納めた税金が不正に使われる場合もあるというのは納得できない。
こういった国民感情を無視してしまうといずれ大きな問題になるということが今回のデモ活動の真意であるし、ここは解決に向けて努力する意思は見せてほしいところだ。
外国への支援についてはそもそも個人的に賛成の立場なので中立な意見ではないかも知れないが、支援先の国が成長した際に日本企業にとってメリットがあったり、自然災害時に逆に支援を受けられたり大きなメリットがある。
④減税によるインフレ→そもそも今はコストプッシュ型インフレ
これは堀江氏の動画にも多くコメントされていたし、反論動画でも多く語られていた。
現在のインフレはコストプッシュ型インフレである。デマンドプル型のインフレであれば、需要が加熱していることによる物価上昇であるため、減税によるさらなる需要の刺激は悪影響になるものの、コストプッシュ型であれば需要が増えているわけではないので減税によってインフレは助長されない。という話である。
インフレが助長されないという理由を解説できていない
これは一見それっぽいが実は論理が破綻している。
現在のインフレ原因がコストプッシュ型であることと、減税による需要の増加にともったデマンドプル型のインフレが起こらないことはイコールではないからだ。堀江氏は現在のインフレがデマンドプルだと言っているのではなく、コストプッシュ+デマンドプルで二重苦になる可能性があるぞ、ということを言っている。
確かにデマンドプル型のインフレであれば賃金の上昇を伴うため、現在の日本には必要であるが、現在の物価高にプラスでさらに物価が上昇することになれば生活は苦しくなるだろう。
賃金も残念ながらすぐに上がるわけではなく、経営者や大企業社員から徐々に徐々に波及していき、中流階級以下に波及するのはだいぶ先の話になる。
重要なのはコストプッシュ型のインフレを抑制すること(世界情勢の影響)、ついで需要を増やして賃金を上げていくことではないか?と思う。いきなりダブルパンチを喰らうのは無謀なのだ。
⑤財務省解体デモは無意味

そして最後に堀江氏の論調の革新であるデモは意味がないという意見について。
これは反証も何もみな思っていることは同じだと思う。
大きな話題になった、非常に有意義である
ここまで大きな話題になり、普段政治に興味がない人を動かした今回の財務省解体デモが無意味であるというのは少々無理がある。
非常に有意義であったと思うし、結果がどうであれ多くの国民に考える機会を与えたのは素晴らしいことである。
一方で堀江氏が述べたように自分で努力することの重要性も理解する必要がある。
減税する可能性に賭けるよりも自分の努力で収入を10%増やす方がはるかに簡単だ。こういう考えを持っていればインフレにも負けない生活基盤を築くことができることも頭に入れておきたい。
みんな自分だけが正しいと思いすぎ

さてここからがこの記事の最も伝えたい部分である。
人々は自分の考えを正しいと信じて疑わない。
確証バイアスという言葉を聞いたことがある人は多いと思うが、現代のこのSNS社会においてこの確証バイアスが最大限助長される仕組みが出来上がってしまっている。
どの媒体もインプレッション数を稼ぐためにレコメンド機能がついていて、あなたの興味関心のある話題やあなたと同じ意見の人の投稿ばかりが目につくようになっている。
自分と同じ意見の人の話を聞くのは気持ちがいいし、自分と違う意見の人を攻撃している内容の発信はドーパミンが出て気持ちが良くなるものである。
ヒカル氏と堀江氏
ヒカル氏の動画では、林社長が隣で財務省を庇うような発言をしていた。これに対してヒカル氏は民衆の代表というような立場を演出し、林社長が敵のように映る構成をとっていた。
一方で堀江氏は、最初の動画こそ中立のような発言をしていたものの、再生数が増え批判の声が上がるようになると大衆を見下したように見える構成の動画にシフトした。
これらの動画はどちらも仮想敵を作ることで自分の支持者の感情を煽るような構成になっているのだ。非常に巧妙であるし、やはりトップで活躍するインフルエンサーのバズらせ力には脱帽するしかない。結果的にどちらの動画も凄まじいインプレッションを獲得し、大きなお金が動いたはずである。
自分の見ているものだけが正義ではない
こういった背景を見ると、あなたが見た情報というのは誰かのお金稼ぎの一端で、それによって確証バイアスが働き、自分の意見こそが正義であるという固定観念を生んでいると考えられないだろうか。
自分で考えて自分で導いた意見だと思っているその意見が、本当は誰かにコントロールされているものである可能性はないだろうか。
一度立ち止まって俯瞰で物事を考える癖をつけてほしい。
人の意見を真摯に受け入れるのは難しい
現代において他人の意見を受け入れることは非常に難しい。
それは先述した確証バイアスが助長される社会構造のせいであるし、常に誰かと繋がっている現代社会において、自分と違う意見を持つ人は敵として認識されてしまうからだ。
一方でこうした現実を理解して、本当に正しい意見とは何なのかを考えていかないと、社会の進展は妨げられてしまう。今回の財務省解体案のように、誰かに先導され国民感情が昂ってしまい、ろくな議論もないままに政策が改正されてしまうことになればいつか国は崩壊する。
それぞれがそれぞれの意見をしっかりと聞き入れた上で、客観的な目線で正しい部分はないか、間違っている部分はないかと言うのを判断してほしい。それが議論である。あくまでの他者への攻撃ではなく建設的な議論が必要なのだ。
まとめ|アホは自分であると意識して生きる
ソクラテスの説いた『無知の知』。
知らないことを自覚することこそが賢さである。という非常に有名な話。
現代においても、有能な人ほどメタ認知能力が高く自分の評価が低くなりがちで、無能な人ほどメタ認知能力が低く自分の評価が高くなると言われている。
有名な実験に『あなたは車の運転が平均よりうまいと思いますか』と問うものがあるが、この設問に対して7割以上の人は『はい』と答えるのだ。つまり多くの人は自分の評価を正しく見ることができない。
何かの物事について、自分とは違う意見に触れた時『アホは俺だったかも知れない』と常に意識することで、他者の意見は受け入れやすくなるだろう。
そうして生きていくことでより正しい方へ進める可能性が少しでも高くなるなら、こんなに素晴らしいことはないじゃないか。
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